1.不動産デベ vs 売買仲介

私自身が業界経験者ということもあり、新卒で不動産業界への就職を希望している学生や、他の業界から不動産業界に転職を検討している中途組の相談にのることがよくある。


特に学生さんや若手の人と話すと、総合不動産ディベロッパー(以下「総合デベ」)やマンションディベロッパー(以下「マンデベ」)を希望している人が多い。多くの人が口にする志望理由は「自分の子供や孫の世代にまで残るような大きな仕事がしたい」というもの。街づくりや都市開発、大規模開発に動機付いている。そしてもし入社できたら、まずは若いうちは顧客と接することができる営業職をやってみたいという人が大多数だ。その理由を聞いてみると、親や先輩に「キャリアのスタートが営業だとその後に応用が効きやすい」と言われているケースがよくある。私自身もそうであったが、これは概ね間違っていない気がする。総合デベやマンデベでは開発・設計・企画・業務など営業以外の部署で営業出身の人と接すると顧客志向が強く、よくある職人気質で自己満足で進めてしまうような仕事の仕方をしていない。そして何かしらの使命感を持っていたり、顧客に喜ばれることを仕事のやりがいに繋げている。


一方、既に不動産業界内にいて他の会社に転職を希望していたり、不動産業界は未経験ながらも他の業界で頑張ってきて不動産業界にチャレンジしてみようとしている人はもう少し現実的に考えている人が多い。例えばそれは年収であったり、福利厚生であったり、より高いレベルの営業力の研磨だったりする。不動産という商品の特性上、それ自体が高額であるがためにその販売管理費にあたる費用の総額は高くなる。つまりは広告宣伝費や人件費だ。広告で言えばテレビ・ネット・リアル(街の看板、電車広告や紙媒体)で不動産広告を見ないことは無いだろう。そして不動産は高額商品がゆえに、楽天やアマゾンなどのECサイトにおいてクリック一つで購入しにくい。そのため高額商品を詳しく説明する営業マンが必要であり、商品を売るための販売コストは他の業界のそれよりも高くなりやすい。そのため人件費=営業マンの給与が高くなるであろうというイメージが世間でも定着している。

また「コミッション」と言われる、売ったら売った分だけ自身の給与に反映される傾向があり(実際総合デベやマンデベではそうではない会社も多いが)不動産業界以外の他から転職をしてくる人にとって割の良い仕事に感じられてしまうのであろう。また、安い商品よりも高い商品を売れるセールスマンのほうが市場価値が高いと思う人も多い。そのため他の業界で営業成果をあげたら、自分の営業力を更に高めるために不動産業界に転職してくる人も一定数いるのである。
 
もちろん、新卒や若手の方の都市開発や街づくりに対する夢も、中途転職組の年収アップや営業力向上に対する意欲も大いに応援したいし、私自身も過去を振り返ってみて心から自分のキャリアに対して良かったなぁと誇れるものがある。ただあなたがどういうタイプの人間か、どういう仕事がしたいのか、によっては気をつけていただきたいことがある。それは同じ「不動産営業」でも実は細かいセグメントに分かれていて、その仕事内容に特徴があり、場合によってはあなたが目指していることややりたいことと違った選択をしてしまうことがあるということだ。今回は特に不動産営業職の中でも、賃貸・売買で言えば売買に焦点を絞り、また更に総合デベもしくはマンデベと不動産売買仲介にフォーカスしてその点について解説してみたい。


※ここで言う「総合デベ・マンデベ」というのは例えば、三菱地所レジデンス・三井不動産レジデンシャル・住友不動産、東急不動産、東京建物、野村不動産、大京などがそれにあたる。また「売買仲介」というのは例えば、三井不動産リアルティ、住友不動産販売、東急リバブル、野村不動産アーバンネット、三井住友トラスト不動産、大京穴吹不動産、大成有楽不動産販売、などがあげられる。

 

上の表を見ていただきたい。
大きく分けて二つの営業職について比較しているが、どちらも一長一短なところがあるかもしれない。ここではどちらが良いとか悪いとか言いたいのではなく、二つの営業職についての特徴を把握していただければと思う。
 


1-1.給与・コミッション


不動産業界は他の業界と比べて相対的に給与が高い。デベと仲介でどちらが高いというのはあまり感じないが、その構成で言うと少し変わってくる。年功序列で勤務年数が上がれば上がるほど給与も上がっていくのが総合デベやマンデベだ。一方、売買仲介の営業は売ったら売った分だけ入ってくるようなコミッションが高い傾向にある。手数料に対するパーセンテージでインセンティブのように担当者がもらえることが多い。歩合の比率が高い会社だとコミッションだけで1,000万円を超えるような会社もある。デベの営業もコミッションはあるが、私がいた新築マンション営業職でいうと1戸売ると5,000円程度という雀の涙のような報酬だった(笑)
またその会社が扱っている不動産の種類によっても大きく変わり、居住用不動産と投資用不動産で分けるとすれば、投資用不動産を販売する営業職のコミッションが最も高い。これはデベも仲介も同じ傾向にある。

 

1-2.アフターフォロー


あなたが仕事をするのに何を重視するかにもよるが、顧客の満足にとことん向き合って営業をしたかったり、一度購入してくれた顧客と長く付き合いたいという場合、アフターフォローは欠かせないだろう。総合ディベロッパーやマンションディベロッパーにはアフターサービスの部署が必ずあり(もしくは子会社の管理会社がその役割を担う)、購入後のサポートが徹底的にされる。自社物件の瑕疵が無いかも含め、長期修繕計画に基づいた物件管理の義務がデベ側にはあるからだ。一方不動産売買仲介の場合、自社物件ではない。そのためご購入・ご売却いただいたらそれでサポートはおわり、というケースが多い。当然投資用で購入してもらい管理をできるケースはあるが、ほとんどは購入時や売却時のみの関係となりやすい。


1-3.不動産に関する知識


デベの営業職で弱いのは総合的な不動産知識が売買仲介営業職に比べて低いことかもしれない。特定の物件、例えば自分がモデルルームに出勤して毎日接客するような担当物件の情報には詳しくなる。また新築物件の構造や仕様だったり、一棟全体における各部屋の価格表などの把握・購入後の住宅ローン減税に関して等、相当限られた情報を深く理解するようなことに終始する。
一方で売買仲介は幅広い。なぜなら一つの物件に絞って物件知識を覚えていたのでは追いつかないような形で日々違う物件に接するからだ。そのため、様々な面で物件を比較する能力が長けてくる。また買うときだけではなく、売るとき、貸すときなどの法律や税制にも詳しくなっていくため、その知識幅や深さがやればやるほど磨かれていく。デベと比べて分業していない業務も多いため、大変だが知識やスキルが付くと言えるだろう。


1-4.ジョブローテーション


デベにはものすごい多くの部署と職種が存在する。当たり前だが土地を購入するところから始まり、その購入には金融機関から借り入れした資金を使い、ゼネコンと協力して設計・施工などの建築に入る。商品企画や価格決定、マーケティング活動をする部署がいる。営業と販売促進が共に営業活動をし、顧客が住宅ローンを組むところや契約部分を業務部が担当する。アフターフォローや管理に関しても同じデベ内もしくはグループで顧客対応するのだ。営業職でキャリアをスタートしてから営業部以外の部署への異動も考えられる。特に新卒社員のジョブローテーション制度を充実させている企業は多く、大手の中には最低2職種を経験させることを人事制度に入れているところもある。
一方売買仲介の営業職は、比較的ずっと営業をして、プロとして成熟するような専門職キャリアの色が強い。やはり自社で物件を持たない、そして資産や在庫を持たないため、身軽な組織になりやすい。もちろんデベと同じでマーケティングや販売促進、業務部なども存在するが、売買仲介の営業職方がとことん物件を売り、その営業部のことを周りの部署がサポートするような組織体系になっていると私は思う。


1-5.顧客の選択肢


新築のマンション営業をやっていた私にとって、最も自身の葛藤と戦った原因は「顧客の選択肢は少ない」ということだ。デベの営業は、顧客が販売センターやモデルルームに来訪して、その物件が顧客の条件と合わなかった場合、他に取り扱っている自社物件を紹介することになるわけだが、選択肢が非常に少ない。特にエリアにこだわっている顧客だと、条件が合わずに結局商談破棄ということが多い。自分が取り扱う新築マンション以外を検討しないように、とにかく取扱物件だけをオススメする。他社の営業などは自社物件以外の競合物件の悪いところをまとめ潰すようなことをしていた。私の場合はそこまではしなかったが「様々な物件から選んでもらえたらどんなにお客さんが喜んでもらえるだろう」と何度も思った。
その点、売買仲介は顧客の選択肢が多彩だ。例えばレインズという不動産業者が見ることができる売り出し中の不動産データベースで言えば、常時17万件くらいの不動産が載っている。つまり極端に言ってしまえば中古売買仲介の業者は顧客に17万件の不動産を紹介できるわけだ。新築マンションを売るデベの営業職から売買仲介の営業職に変わったときに、本当に楽しいと思ったし、顧客のために物件を探してくることも本当に楽しかった。


1-6.起業のしやすさ


総合デベやマンションデベが財閥系や金融機関系が多い理由は、資金が必要だからだ。土地の購入や物件を建築するときに多額の費用が必要になるだろう。そのため起業してすぐに物件開発するのはとても難しい。起業するときは皆資金が無いからである。そのため独立系のマンションディベロッパーに多いのが、マンションの販売代理などからはじめて資金や信用を蓄え、自社物件開発にチャレンジするような流れの起業だ。当然販売代理をやるからには営業力がなくてはいけない。そのためどこかのデベでトップセールスだったような社長が立ち上げていることが多い。そういう独立系デベは営業力が強く、少し立地などが悪い物件を開発したとしても売り切って利益を出し、着実に事業を拡大していける。ただし稀な話だろう。
やはり起業のしやすさで言えば売買仲介であろう。自身が宅地建物取引士の免許を持っていれば法人でも取得することが容易だ。不動産協会に供託金などを預けたりする必要はあるが、デベと比べれば少ない資金で不動産業を起業できる。また自社で在庫を持つ必要がないため、究極、顧客獲得さえできればレインズに載っている物件から選んでもらい手数料を得ることができるわけだ。ただしはじめやすいというのは誰でも参入しやすいと同義であり、何かの売りや差別化が無いとそのうち業績が悪化していくことになるだろう。

 

2.最後に

いかがだっただろうか。不動産営業と言えど種類は多く様々だ。多角的な観点で比較をし、どのような営業職種に転職するか就職するかの参考にしていただければ幸いだ。